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仙台高等裁判所 昭和46年(ネ)79号 判決

主文

原判決主文第二項中控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人の控訴人に対する予備的請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文第一ないし第三項同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並に証拠関係は、次に記載するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

第一  控訴代理人の主張、

一、民法三九一条にもとづく第三取得者の権利は「不動産の代価をもつて…………償還を受くることを得」とあるように、競売手続において売得金交付の際に優先的に償還を受けられるというものにすぎず、競売手続においてその権利を主張しなかつた場合についてまで認めらるべきものではないと思料される。

第三取得者が右の権利を主張しないまま競売手続が終了し抵当権者が必要費または有益費に相当する金員を受領したとしても、実体上の権利がない者に配当された場合と同一視することは失当である。抵当権者は実体上当然に配当を受ける権利を有し、ただ第三取得者から権利の主張が行われた場合にのみ、第三取得者に優先権をゆずることとなるにすぎないと思料される。

二、仮りに第三取得者が競売手続終了後も必要費または有益費の償還を求めうるとしても、その請求をなすべき相手方は抵当権の被担保債権の債務者でなければならないと思料される。抵当権者は実体上も債権を有し、その権利にもとづいて配当を交付されたものであるから、法律上の原因なく利得したものとはいえず、仮りに不当に利得した者があるとすれば、それは第三取得者の出捐にもとづき債務を消滅させ得た債務者である。

したがつて第三債務者は債務者に対し請求すれば足りるものであるし、また債務者に対しかかる請求権を有する以上、抵当権者に対する関係において、その損失によつて利得させたものと認め得ないものである。

三、なお控訴人は、本件請求の対象となつている交付金を未だ交付されていないものであり、被控訴人主張のような利得を受けていないものである。

不当利得返還請求権はその性質上現実に利得している者に対してのみ認められるべきであり、条件付或いは将来の給付を求める如き形では認容され得ないものと思料される。現実に利得が行われる以前の段階において権利を主張する者は不当利得の返還という形ではなく、他の方法によつて権利を主張すべきであると思料される。

四、叙上のように本件請求は法律上認容され得ないものと思料されるが、仮に被控訴人において本件の如き不当利得返還請求権を有するとしても、証拠によつて明らかなように、本件土地の造成にたかだか坪当り八〇〇円程度総額にして約二〇〇万円程度要するにすぎなかつたところ、被控訴人が同土地を取得する頃、すでに堀鉄工業株式会社は仙台市小田原在住の土建業者に請負わせて同土地の埋立工事を相当程度まで施工していたものであるから、被控訴人において請求し得べき額は、その請求額の数分の一ないし十数分の一にすぎないものである。

第二  証拠関係(省略)

理由

第一  被控訴人の第一次請求(配当異議の訴)について

一、抵当権の実行による不動産競売手続においても配当表が作成されたときは配当異議の訴訟を提起し得ることは原判決の理由第一の一に述べるとおりであるから、右記載をここに引用する。

二、ところで本件において被控訴人が本件配当異議訴訟を提起した経緯並にその異議事由をみるに、いずれも原本の存在とその成立につき争いのない甲第一八、一九号証並に弁論の全趣旨を綜合すると、被控訴人は仙台地方裁判所昭和四〇年(ケ)第七一号任意競売事件における競売不動産である原判決添付目録記載の不動産につき金一、二〇〇万円の有益費を支出しているとして、右競売物件の競落代金六、四八〇万円から右一、二〇〇万円の有益費の償還を受けるため同裁判所にその配当要求の申立をしたが、右配当要求が競落期日の後になされたものであつたため、右配当要求が取上げられず、結局昭和四四年一月二一日同裁判所において被控訴人の配当要求金額が交付表に計上されずに原判決添付別表第一記載のような交付表が作成された、その後被控訴人は右競売事件の同年一月二一日の配当期日において右交付表を原判決添付別表第二記載のような交付表に更正することを求めて配当につき異議を述べたが、右配当期日において異議が完結しなかつたため本件訴を提記した、ものであることが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。

右事実によれば、被控訴人はその配当要求債権が全く取上げられず、その配当要求を無視して交付表が作成されたことを不服として右配当要求債権を交付表の第一順位に計上すべき旨主張してその救済を求めているものであるところ、右のようにその配当要求債権が全く取上げられず、これを除外して交付表が作成されたことを不当としてその作成された交付表の更正を求めることは、結局配当要求債権を除外して交付表を作成したという裁判所の交付表の作成手続についてこれを不当として不服を申立てるものにほかならないのであるから、その不服申立の方法は執行方法に関する異議によるべきものと解するのが相当であつて、配当に関する異議の訴によつてその救済を求めることは許されないものというべきである。

そうすると、被控訴人の第一次の請求である本件配当異議の訴を却下した原判決は、その理由は異るが結論において相当といわなければならない。

第二  被控訴人の予備的請求(不当利得返還請求)について、

一、被控訴人が仙台地方裁判所昭和四〇年(ケ)第七一号任意競売事件の競売不動産である原判決添付目録記載の不動産の第三取得者であること、右不動産が代金六、四八〇万円で競落されたこと、被控訴人が右不動産につき金一、二〇〇万円の有益費を支出した関係上右不動産の競落代金から優先的に金一、二〇〇万円の償還を受ける権利を有することは原判決の理由第二の二及び三に認定判断するとおりであるから右理由記載をここに引用する。当審における証拠調によるも右認定判断を左右できない。

二、ところで被控訴人は、被控訴人の第一次請求である配当異議が認められず、控訴人が原判決添付の別表第一の交付表のとおり交付を受けた場合は、被控訴人において競落代金から償還を受けうる金額、すなわち控訴人の場合は原判決添付別表第一の交付表の金額と同別表第二交付表の金額との差額である金八、七八二、四七七円を法律上の原因なくして不当に利得し、被控訴人は同額の損失を受けることとなるから、控訴人が右別表第一の交付表の交付金を受領することを条件として右金員の不当利得金の返還を求める旨主張する。

しかしながら、民法三九一条において第三取得者の支出した必要費、有益費について競落代金から優先的に償還を受ける権利を認めた趣旨は、第三取得者が抵当不動産につき支出した必要費、有益費は、該不動産の価値の維持、増加のために支出されたものであると共に、若し競落代金全額が第三取得者を除く他の債権者に交付されるとすれば、第三取得者の支出によつて価値の増加した競落代金の分だけ余分に債務者の債務が消滅することとなる関係から、債務者においてその分だけ不当に利得する結果となるためと解されるから、第三取得者において競落代金から必要費、有益費の償還を受けずその競落代金全額が他の債権者に交付された場合において、これによつて利得を受けるのは、結局そのために余分に債務消滅の利益を受けた債務者にほかならないものといわなければならない。

しかして、第三取得者が優先して必要費、有益費の償還を受け得るのは競落代金からであることは民法三九一条の規定上明らかであり、したがつて競落代金全額が他の債権者に交付され、競落代金が存在しなくなつた後においては、第三取得者の優先償還請求権は消滅するものと解すべきであるから、第三取得者が競落代金から必要費、有益費の償還を受けず、その競落代金全額が他の債権者に交付されたとしても、その交付がなされた後においては、債権者においてその交付された金額を保持することをもつて、法律上の原因なくして不当に利得しているものということはできないものといわねばならない。

してみると、控訴人が本件競落代金から原判決添付の別表第一記載の交付表のとおりの金額の交付を受けたとしても、控訴人において被控訴人の主張する金額すなわち金八、七八二、四七七円を不当に利得したものということはできない筋合であるから、被控訴人の交付金の受領を条件とする不当利得の返還請求も理由がないものといわなければならない。

第三  そうすると、被控訴人の予備的請求である不当利得の返還請求を認容した原判決は相当でなく、その取消を求める控訴人の本件控訴は理由があるから、原判決主文第二項中控訴人と被控訴人に関する部分を取消して被控訴人の控訴人に対する予備的請求を棄却することとし、民事訴訟法三八六条、九六条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

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